DPC データの活用によって
診療の標準化とコスト削減を進める
|
急性期入院医療の包括支払い制度が適用されるDPC対象病院は718。新規にDPC準備病院へ応募している149病院を含めると、DPC病院は1569にのぼる。いまや大病院だけに限らず、中小病院もDPCの時代に入ったといえる。
2006年からDPC対象病院として、医療の質向上と経費削減に取り組む相澤病院(長野県松本市)の理事長相澤孝夫氏に、DPC導入による効果などをうかがった。
※(DiagnosisProcedureCombination/診断群分類)
|
 |
相澤孝夫
特定・特別医療法人慈泉会 相澤病院
理事長 院長
聞き手
本誌編集委員 岩田修一
(医業経営コンサルタント)
|
 |
急性期病院の条件を
クリアするツールがDPC
――相澤病院では2006年からDPCに移行されたわけですが、まずはその理由からお聞かせください。
相澤 急性期病院は、おおむね包括払いになっていく流れの中で、いざ「急性期病院はDPC」となっても、すぐには対応できません。また、DPCは急性期病院として取り組まざるを得ない課題とも考えていました。そういう中で、DPCの望ましい要件とされている「電子データの提供」「ICUの加算」「画像診断加算」などの5つの要件も私たちの病院はクリアできていましたから、それなら早いうちからきちんと対応しておいたほうがいいだろうと考えました。同時に急性期病院全体の中で、私たちの病院がどれぐらいの位置付けにあるかを知りたいということもありました。
 |
――診断群分類であるDPCについて、どのように捉えていますか。
相澤 DPCは、効率的に、しかも安全かつ素早く、患者さんを治すという急性期病院としての条件をクリアしていく上で一番いいツールです。たとえば、欧米できちんとしたエビデンスがあっても、欧米人と日本人は違いますし、医療制度も違います。
では日本医療のエビデンスはとなると、DPCでつくられてきたデータが活用できるようになると思います。他の急性期医療とも比較できる。つまり医療の質を担保するためにもDPCは絶対必要なものです。 |
(本誌編集委員 岩田修一) |
診療行為の標準化とともに
チーム医療を向上させる
――DPCによる包括評価というよりも、診断群分類としてのデータ活用が大きいわけですね。
相澤 たとえば、病院で急性肺炎の統計をとろうと思っても、さまざまな症例が入ってしまうものですから、なかなか1つの固まりとして捉えきれませんでした。ましてや、われわれが行っているのは医学ではなく、医療であり経営ですから、医療の質と収入やコストのバランスが必要です。それがDPCによると、最も多く消費した医療資源の統計資料となりますから、バランスのとれたデータが把握できるようになります。
当院では、DPC準備病院のときから厚生労働省に提出するためだけでなく、さまざまなデータを1年中とっていますから、大量の症例数が集まっています。症例が多ければ多いほど、データの精度は高くなり、標準化できるところ、標準から外れているところがより一層明らかになります。
――それぞれの診療行為についての自院の位置付けをつかむことができるわけですね。
相澤 もし標準から外れていれば、どうして外れているのかを調べ、その理由がある程度はっきりしていて、DPCのほうがおかしいということであれば、それはそれでみんな納得します。
そうではなくて、明らかにうちの病院だけが外れてしまっている理由があれば、それはどうしてなのかを調べ、改善につなげていく。また、他との比較が可能になったことで、働いている職員のモチベーションもアップしていきます。 |
 |
――その改善が診療行為の標準化につながっていくわけですね。
相澤 たとえば、急性腎盂腎炎などは泌尿器科でも入院するし内科でも入院する。しかし、結果が内科と泌尿器科で少し違う。しかも合併症がないのであれば、どうして同じ病気なのに違うのかということになり、院内の科ごとの標準化ができるようになります。
もう1つは、肺炎を例にとれば、同じ内科に入っても医師によって少しずつ検査のタイミングや抗生物質の使い方などが違う。しかも患者さんの平均在院日数などもわかっていますから、すると「何であなたはこんなに長くかかってしまうのか」ということも追究できる。そのほかにも、ここは内科の病棟が3つありますが、病棟ごとにどこの病棟の入院期間が長いかまで見えてくるわけです。すると、そこでの看護師さんの関わり方まで見えてくるようになります。
――診療行為ごとや医師ごと、病棟ごとの標準化だけでなく、チームの関係までもが明らかになっていくわけですね。
相澤 リハビリがどれだけ入っているのか、NST(栄養サポートチーム)がどれぐらい関与しているかもわかる。その病棟のチーム医療がどうなっているかまで見えてきてしまう。しかもすべてデータですから、理解も得られやすい。
あるいはそれをきっかけにして、たとえば抗生物質の使い方だったら、今度は薬局がまたそのデータをとって出していくという、医師、看護師だけではなく、コ・メディカルもそこに自分たちのデータを持って話し合いができるようになりました。そういう意味においては病院全体として医療の質を考えていこうとする姿勢が出てきていると思います。
すべての行為を
見直すきっかけとなる
――包括払いということでは、コスト削減にもつながっていくものですね。
相澤 結局、無駄なものがなくなっていきます。たとえば、「他では抗生物質はこれくらいしか使っていないのに、なんで私たちの病院はこんなに使わなくてはいけないのか」とか、「よそではこの薬は使っていないのに何でうちの病院は使っているのか」というようなことを考えるようになっていきます。そして、無駄というものが意外とあることにみんなが気付くようになります。
また、診療行為が標準化されてくると当然、今度はクリニカルパスという方向に行きます。そのクリニカルパスをつくるときにチームで考えていくようになることと、もう1つはコスト意識が醸成されます。このようにみんなの意識が高まりますから、クリニカルパスも非常に質の高いものがつくられていき、コストの削減にもつながっていくわけです。
――日本全体では、意外と多くの無駄が見えてくるのでしょうね。
相澤 実際、DPCを導入すると「どうして手術前に入院するのか」とか、「術後の1週間の入院は、なにも検査しないけれど何で入院しているの?」というようなことがはっきり見えてきます。これまでは、合併症が心配だからなどの言いわけが通用していたわけです。でも実際、合併症は1人も起こしていない、3日で帰しても再入院率はほんのわずかしかないことなどもデータでわかるのです。そうなると、これまで当たり前のように行っていたことを見直すきっかけになっていくわけです。
頑張っている病院が
報われる制度を要望
――実際に経営の効率化につながっていらっしゃいますか。
相澤 なかなか難しいところがあります。DPCにおける問題点がまだ解決されていません。たとえば、手術も処置もしない肺炎は、15歳以下の子どもも、大人も、80歳以上の高齢者も、誤嚥性の肺炎も何もかもが一緒の評価です。分析すると15歳以下は黒字になる。15歳から中年過ぎの人は上手にやればトントンです。ところが80歳以上はどうやっても赤字になる。合併症もありますし、誤嚥性の肺炎などになると、次の手を打たなければなりません。それらの要素は何ら考慮されていないとなると、DPCの設定がおかしいのではないかと思わざるを得ないわけです。
それに地域の要因も関係します。その地域でその病院しか急性期がない、回復期リハビリの病院がないとなると、次の病院に転院できない。そうなると、どうしても平均在院日数が長くなり、1日当たりの収入は下がってしまいます。病院全体としてすごく収益効率がよくなっているかというと、そうはなっていません。
――クリニカルパスに乗らないようなイレギュラーなケース等も影響するのでしょうね。
相澤 そういう患者さんの場合は長期になりますし、退院させられるかというと退院するところもない。 |
 |
また、年齢を考えても、どこの病院も高齢者は増えていますが、それ以上に地方の高齢化率はすごく高いので特定入院期間を超えるケースが増えています。救急の問題もあります。救急車をたくさん受け入れるほどその病院の経営は厳しくなります。なぜかというと、救急車で来て、その日のうちに検査をして、その日のうちに入院します。すると検査したのはみんな包括評価のコストになるのです。予定入院だったら、外来ですべての検査をしておけば、出来高の点数です。だから、救急車で来られて入院された患者さんの率が高ければ高いほど、あるいは緊急手術の率が高ければ高いほど、その病院の効率は悪くなります。
地域で苦労して汗水だらけになって頑張っている病院ほど、収益効率が悪くなるのは、いかがなものかと思います。そういう意味で、単なる調整係数はなくし、その代わり、地域で救急を担っている病院に、地域に対する医療貢献係数をつけるとか、どれだけリスクの高い患者さんの手術をしているかによって係数をつけるなどにしたほうがよいと思います。
目的・方針を明確にして
導入することが重要
――これまでDPCを実際に導入されて2年が過ぎたわけですが、今後の対応というと、どのようなことを考えられていますか。
相澤 やはり、まずは無駄な医療の削減です。無駄な入院を減らすために全科を手術当日入院に切り替えていくこと、また余分な入院と言えるかどうかは疑問もありますが、少なくとも病院にいても何も行っていない入院をなくすことです。そのためには、これまでの院内だけのクリニカルパスから院外も含めた地域のクリニカルパスが必要になってきます。
それと今後は、病病連携が絶対必要になってきます。病病連携をする際にこれまでと同じような医療の質が確保できるような患者さんの受け渡しをしていく。その連携の仕組みをいかに構築していくかが問題になってきます。
それから行わなくてもよい行為を減らしていくことが必要です。胃がんの手術をするとドレーンを入れますが、本当にドレーンが必要なのかどうか。膀胱留置カテーテルを入れるのは本当に必要なのか。術後の合併症を防ぐためにどんな努力をすればいいのか。さまざまな工夫をこらしながら治療法ということまで含めて再検討していくことが必要になってくるということです。これは医療の質にもかかわる大きな問題です。
そして、DPCを使って医療の質が高まり、標準化がきちんとされてくると、今度はそれを住民の方に知ってもらうことが大事になります。平均在院日数がどんどん短くなっていきますので、この病院をきちんと選択してもらわなければなりません。そういう新入院患者を確保する広報戦略についても対策を講じなくてはならないと思います。
――さらなる医療の質向上と経営対応策が、生き残りには必要だということですね。
相澤 私は、医療というのはまず早く治すことが必要なことだと思います。そして早く治すことができたら、次はできるだけ安くであり、その一方で安全・確実にだと思うのです。これをしっかり担保することが重要なことです。そのためのツールとして急性期医療におけるDPCがあり、非常に意味のあるものだと思います。
ただ、全国的な比較の中で自分の病院の位置がどこにあるかがわかり、改善しようというモチベーションにつながる。急性期病院の流れとしてもDPCがあるから導入するというだけではうまくいかないと思います。そこで一番重要なことは、病院としてどういう方針や目的を持って、どのように病院を変えていきたいかという強い意志を持ってDPCを導入することだと思います。
■相澤孝夫(あいざわたかお)
昭和48年慈恵会医科大学卒、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会指導医・専門医、
日本医師会認定健康スポーツ医 |
■特定・特別医療法人慈泉会相澤病院
〒390-8510
長野県松本市本庄2-5-1
TEL:0263-33-8600
職員数:1439人(平成20年6月1日現在)
看護体系:7対1入院基本料
救急告示病院/二次救急指定病院、中信地区新型救命救急センター指定、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院、日本医療機能評価一般病院種別B認定、管理型臨床研修病院、高次脳機能障害者支援拠点病院 |
(平成20年10月15日/「TKC医業経営情報」2008年12月号)
|