| 超高齢社会における医療・介護
全保険者の統合一本化が不可欠
超高齢社会を迎え、医療・介護の制度維持のための改革が不可欠となっている。政府は消費税と社会保障改革の議論を進め6月には方向性を示したいとするが、どのような医療・介護の将来像を示すのかが注目される。
慶應義塾大学医学部教授の池上直己氏は、「被用者保険を含めたすべての保険者の都道府県単位への統合一本化が、制度の維持には不可欠」という。 |

|
慶應義塾大学
医学部教授
池上 直己
聞き手
本誌編集委員 岩田修一
(医業経営コンサルタント) |
プロフィール
◎ naoki ikegami
専門は医療政策、医療管理学、介護の包括的範囲
1949年生まれ。75年慶應義塾大学卒業、81年医学博士、90年慶應義塾大学総合政策学部教授、ペンシルベニア大学訪問教授を経て、現職。
主な著書『ベーシック医療問題(改訂第4版)』(日経文庫)、『医療経済・政策学第2巻医療保険・診療報酬制度』(編著・勁草書房)、『臨床のためのQOL評価ハンドブック』(編著・医学書院)、『日本版MDS-HC2.0在宅ケアアセスメントマニュアル』(共著・医学書院)ほか多数。
|
|
「医療=高齢者医療」で
あることの認識が必要
──はじめに現在の高齢社会における医療・介護について、どのように見ておられますか。
池上 高齢者医療というと、何か特別な医療のように認識している人が多いようですが、医療費ベースでみると、半分は65歳以上の人に使われていて、それが15年後には3分の2になります。患者の割合でみると、入院患者においてはすでに3分の2が、外来においても半分弱の45%が65歳以上です。つまり、まさに医療そのものが高齢者医療であると言っても過言ではない状況なのです。
すでに医療費の半分以上が高齢者の医療に使われているということは、医療機関の収益の半分以上は65歳以上からであって、それが3分の2以上になるということです。確かに医療の対象には赤ちゃんも若い人もいるわけですが、基本的に高齢者を対象とした産業であることを認識しなければいけません。
保険制度にしても、あるいは医療機関としても、そのつもりで対応しなければいけないわけです。
 |
──提供していく医療においても、治療して治す医療から生活を支える医療に変わってきているわけですね。
池上 入院医療には大きく分けて3種類あり、感染症や盲腸などのように急に発症してすぐに治る医療も依然としてあるわけです。それからがんをはじめとする専門医療が必要な医療もあって、その中には肺気腫や肝硬変などの慢性疾患で、その急性増悪への対応もあります。そこまでは一般の医療関係者も認識しているのですが、実は3番目に大きくて、そして今後もっと大きくなるのは、虚弱高齢者に対する医療です。脱水ということで入院してみたら実は糖尿病が悪化し、心臓の機能が落ちていたりする。1つにターゲットを絞った治療ではなかなか治らない病気が増えています。 |
現在、導入されているDPCというのは、ある病気に対してこういう標準的な治療の費用を包括して支払う仕組みなので、自動車の修理工場みたいな発想に立ったものです。たとえばエンジンのこの部分が悪いからこれを標準的仕様に従って、できるだけ効率的に交換作業を行う。それにはコストとしてこれだけかかるというものです。そういう修理工場的な報酬体系は、たとえば若い人の盲腸や胆のうの摘出手術であれば、まさにそれでいいわけです。しかし、脱水で入院した虚弱高齢者の場合は、脱水に対応するDPCとしてはあっても、その治療だけで済まないケースが多いのです。そういう患者が今後もっと増えていきます。
これまで修理工場的な臓器別対応が1つのモデルとして教え込まれてきましたが、現状がズレてくるにしたがって、どういうふうに対応していくかは今後の課題だと思います。
──慢性期のほうも包括的な報酬体系がもっと必要になってくるのでしょうか。
池上 慢性期というのは疾患が慢性ということではありません。日本で慢性期と言っているのは療養病床などでの入院期間が長いということであって、入院期間が長い入院に対してどういう報酬体系がいいかということです。
介護上の必要から長いのであれば、それは医療保険ではなく介護保険の対象であって、医療上の必要があるからこそ医療保険の療養病床に入院するべきです。そのために医療の程度に従った医療区分を設け、医療保険の療養病床を5年前に導入したわけです。その骨格は変わらず、定着したのではないかと考えています。
不足しているのは「住居」
サービスは「外付け」で
──高齢者がますます増えていくということでは、入院施設あるいは介護施設などのニーズも高く、施設ももっと必要になるのではないかと思うのですが……。
池上 必要ではないと思います。
特別養護老人ホームになぜ入所待ちがあるかというと、“お得”だからです。4人部屋なら、一定の収入がある人でも月額6万円ですべてケアしてもらえます。医師は定期的に回り、見守ってもらえるし、少なくとも昼間は看護師がいる。その負担も、もし所得が低ければその半分程度でいい。それだけの療養環境が月3万円で手に入るならいくらでも需要がある。そういう意味では、10倍に増やしてもまだ不足します。しかし、それでは財源的に成り立ちません。
ですから改革が必要であり、改革後は、特養における医療の部分は所得に関係なく全員同じケアを受けて医療保険から給付する。介護の部分は、一定レベルまでを介護保険で保障しているのでそれ以上は自費とする。住居は本来、生活保護で認めた基準でいいはずなので、それ以上のアメニティを望むのであれば、それは自費です。つまり、これまで介護保険の枠内で一体的に給付していたものを、それぞれの異なる基準が適用されるように改革することが必要だと、私は考えています。
このように改革すると、不足しているのは高齢者向けの「住居」であって、「施設」ではないことが明らかになります。
──今後は、そのように医療部分と介護部分と居住部分とに区分けするようになるわけですね。
池上 そうしないと財源的に持たないし、高齢者の尊厳ということを考えても、やはり施設というのは施設なりのことしかできないわけですから、自分の住居の中でケアを受けるという姿に変えるべきだと思います。デンマークでは老人ホームを次々とつぶして住居に変えていっています。
──地域包括ケアといいますか、医療も介護も外付けのサービスになっていくということですか。
池上 在宅ケアが中心といっても、若いときからずっと住んでいる家でサービスを提供するのは難しいです。それは介護職員の移動時間が非常に長くなるからです。その点、高齢者住宅の最大のメリットは1か所に居住しているから次々と御用聞きのように回れます。地域包括ケアの理想像からすれば住み馴れた家ということになるわけですが、社会全体が高齢化しても世帯ごとの高齢化は異なります。
月1回程度のサービスの提供でよいのなら住み馴れた家のほうがよいと思いますが、1日に何回も来てもらう必要があるのなら集合住宅でないと難しいのではないかと思います。
|
 |
(本誌編集委員 岩田 修一) |
──そうしますと、都会のマンションのように集合したところと移動距離のある地方とでは対応が変わってきますね。
池上 非常に厳しいことを言うようですが、たとえば千代田区とへき地でケアを受けるというのは最高の贅沢です。というのは、千代田区のマンションは非常に高いですし、人件費も高い。一方、へき地は人件費は安いが、移動時間がすごくある。そこまで国が対応する必要があるかという問題がでてきます。たとえば雪国などは冬ごもりといって、少なくとも冬の期間中は人口10万人ぐらいの都市に移動していただくことが必要になるかもしれません。
保険者の一本化で
安定した制度構築が不可欠
──そういう中で、新しい高齢者医療制度は、国会への法案提出が見送りになりましたが、そこでは2段階に分けて県単位に統合していこうというものでした。池上先生は、被用者保険も含めてすべての保険者を都道府県単位に統合するのが必要不可欠だというご意見ですね。
池上 改革会議で示した2段階での移行は、第1弾として、基本的に75歳以上の高齢者を元の保険に戻し、第2段階として国保を都道府県単位に統合するというものです。しかし、元に戻すということは8割の後期高齢者は国保に戻るということです。もともと国保は財政基盤が非常に弱いわけです。そのうえ高齢者の8割を抱え込むとなれば財政的に持たないので、税金と被用者保険の拠出に依存する割合がますます高まります。
 |
──いま、消費税と社会保障費の議論が行われようとしていますが。
池上 消費税を30%に上げるのであれば財源にゆとりがでてきますが、10%に上げても、国民年金の半分を一般財源で賄うという国民との約束を果たすためと、隠れ借金を含めて国債等を清算するだけでも10%が消えてしまうと思います。年金等の自然増にプライマリーバランスを正常化するだけでも15%ぐらいになるわけです。
そうやって見ていくと、医療に真水として増やすには西欧並みの20%に上げる必要がある。しかし、それを言ったら、どんな政権も持たないでしょう。
そこで、財源を確保するためには、税金を増やす以外には、保険料を上げるか、患者負担を増やすかしかありません。しかし、患者負担はすでに3割負担ですからこれ以上増やせませんので、保険料を上げるしかない。ところが多くの国保の保険料はもうこれ以上は上げられないので、残る選択肢は被用者保険の保険料を上げるしかない。被用者保険も多くが赤字ですが、保険料を上げたからといって健保組合から加入者が逃げて行くわけではないので、赤字なら上げればすぐ黒字になりますし、実際に上げている。だから健保組合が赤字なら保険料を上げればまったく問題なく解決するわけです。
保険料を上げると人件費が上がって、日本の国際競争力が失われて壊滅的打撃を与えると主張されますが、ドイツの社会保険は15%ずつ労使折半で払っています。それでドイツの企業がつぶれているかといえば そうではなく、非常に勢いがよい。ですから払えないことはない。日本では平均で7.26%と、ドイツの半分です。しかも平均ですから、一番低いところは3%台です。10%のところを上げるのは今の状況では厳しいけれども、3%のところを6%にできない理由はまったくないと思います。
いまのままでは医療費の自然増に対応できません。もっと医療を良くしたいのであれば真水を増やす。その財源は被用者保険の保険料アップしかないと思います。それには、被用者保険を含めたすべての保険者の都道府県単位への統合一本化が不可欠だと思います。
自院の方向性の見極めと
質の評価がカギを握る
──地域の医療機関や診療所は今後、どういうことが求められると思いますか。
池上 それは最初の話に戻りますが、入院医療については感染症や盲腸のような急性疾患と、がんや肝臓、心臓などの病気、それから虚弱高齢者の脱水や誤嚥性肺炎などの3種類があります。最初の一つはどの病院もある程度対応できました。2番目は規模の大きい病院、あるいは専門病院でなければ臓器に対応した専門医療は行えません。3番目は療養病床を含めて中小病院のうち、耳鼻科や眼科の専門病院を除いた普通の病院が対応する。国民的ニーズが高いのはこの3番目だと思います。
このうちどれを選ぶか、あるいはどれしか選べないのかを見極めることが重要です。二兎を追う者は一兎をも得ずです。
DPCが導入されてから病床利用率は下がりましたが、患者が新規に入院する割合は上がっています。特に大病院における新規入院が増えていて、その結果、患者の奪い合いになってきているわけです。ですからその中で地域社会および他の医療機関から、この部分はこの病院に任せればいいという信頼を維持し、高めるためにはどうしたらよいかということを常に考えて、設備にしても人にしても厳選しないといけないと思います。
──池上先生は今後、質の評価が重要になるといわれておりますが、それは公開していく方向にあるのでしょうか。
池上 たとえば、法人としてさまざまな介護事業所を経営している場合、今のところ経営者にわかるのは、利用者が何人いて、売上がいくらで、利用者の要介護度がいくつかということです。あとは法令の順守を文書上チェックするだけです。つまり、自分の法人の事業所の提供するサービスがどうなっているのかわかりません。そこで、複数の事業所を持っているところは、質の評価結果をマネジメントツールとして活用することを期待しています。
私は、こうしたニーズに対応するために「QI(QualityIndicators)
研究会」を設立し、今年の11月19日に新しいバージョンを披露します。
| ■QI研修会のホームページ[http://mds-j-qi.com/] |
──質の評価をし、高めていくことで地域からの信頼にもつながっていくわけですね。
池上 QIの値を公開して、地域からの信頼を得ることと、法人としてのマネジメントツールとしての両面があります。日本は行政が求めないとデータを出さないという傾向がありますが、単にホームページ上で質が高いとか、看護師が何人いるといったことだけではどういうケアを行っているのかわかりませんので、他と比較できるかたちで出すことが重要だと思います。
──サービスを行うのは人になるわけですが、厳選した人材を確保していくという意味でも、しっかりとマネジメントしなければ生き残れないわけですね。
池上 そうですね。医師や看護師のように資格があるということは、簡単に辞められる状況にあるわけです。 |
 |
とても流動性が高いので、結局、雇ってあげているわけではなくて、勤めていただいているというのが有資格者を雇用する際の基本的なスタンスとするべきです。そのうえで、理事長や病院長が描いているビジョンや医療のあり方、あるいは患者の接し方に共鳴を覚えてもらうことが必要であると思います。
ですから人事管理というと、一般に人件費を圧縮したなかで、よく働いてもらうために人事考課や面接などを行いますが、病院の場合は一般企業と違って有資格者の集まりですから、一般企業の手法は病院にはあまり役立たないわけです。
──病院の管理が一番難しいかもしれないですね。
池上 そもそも一般企業のように管理できると考えるのが根本的な間違いで、有資格者が職能を発揮できる職場を提供するようにマネジャーとしていかに努力するかということが大事だと思います。
(平成23年1月26日/ 「TKC医業経営情報」2011年3月号)
|